2022年9月24日土曜日

カメノコヨコエビ属の一種 Pereionotus sp.

Amphipoda 端脚目>Senticaudata>Phliantidae ミノガサヨコエビ科

図1a:カメノコヨコエビ属の一種 ♂
体長約4.0㎜(スケール: 1㎜)※額角~折り曲げた腹部まで
2022年6月千葉 オオバモク葉上から採集
vertical*6(@vertical06)さんに標本提供して頂きました

 カメノコヨコエビ属の一種で、未記載種の可能性がある。カメノコヨコエエビ属は胸節背面にこぶをもつものが多いが、本種は背甲が滑らかな点でドンガメヨコエビ(P. holmesi)によく似る。しかし、ドンガメヨコエビとは第1胸節の形が異なるほか、本種では第5-7胸脚長節後縁が強く張り出す(図2a)。


図1b:カメノコヨコエビ属の一種 ♀
この個体は覆卵葉が未発達なため、おそらく未成熟
体長約2.8㎜(スケール: 1㎜)※額角~折り曲げた腹部まで

 図2a~cの付属肢は図1a,bの個体のものである。


図2a:第5-7胸脚(♀ 2.8㎜)

 第5-7胸脚長節後縁が強く突出するのが本種の特徴。


ーーーーーーカメノコヨコエエビ属(Pereionotus)についてーーーーーー

 太平洋中部~東部、インド洋、欧州沿岸に分布する。世界では2022年9月現在で11種が記載されており(WoRMS, 2022年9月閲覧)、11種全種の雌の検索表が Feirulsha & Rahim (2020) に提供されている。


図2b:第1-3腹肢(♀ 2.8㎜)

 腹肢の形質はミノガサヨコエビ科の属の指標のひとつ。カメノコヨコエビ属は第1,2腹肢の柄節はあまり変形せず、第3腹肢柄節は内側に突出すること、第3腹肢外肢と内肢の長さがほぼ等しいことが特徴。


図2c:尾肢&尾節板
左が雌、右が雄

 カメノコヨコエビ属は雌雄で尾肢と尾節板の形に違いがあり、第2尾肢葉部が雌では1葉だが、雄では2葉に分かれる。ただし、第2尾肢による雌雄判別法は若齢個体では当てはまらない場合がある(井口, 2001)。


 日本近海では、本邦からゴクゾウヨコエビ(P. hirayamai)とドンガメヨコエビ(P. holmesi)の2種、ロシアの日本海岸から P. japonicus の1種が報告されている。その他にも日本沿岸で未記載種が確認されており(有山, 2022)、この属のさらなる研究が待たれる。


 ゴクゾウヨコエビとドンガメヨコエビはネットで情報が手に入るため、リンクを共有しておきます。

・ゴクゾウヨコエビ:Pereionotus hirayamai Coleman & Lowry, 2012
 原記載は Hirayama (1987) [記載時の学名は Palinnotus thomsoni japonicus]、和名提唱は平山(1995)。Coleman & Lowry (2012) で命名記載された。

・ドンガメヨコエビ:Pereionotus holmesi (Gurjanova, 1938)
 原記載 Gurjanova (1938) はWADからダウンロード可能。Kim et al. (1992) (Download PDFをクリック)にも図と説明がある。


<参考>
・有山啓之(2022)ヨコエビガイドブック. 海文堂出版株式会社. 158pp.
・Barnard JL & Karaman GS (1991) The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoa (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum , 13 (1,2), 866pp.
・Coleman CO & Lowry J (2012) The genus Pereionotus (Crustacea, Amphipoda, Phliantidae) from Australia. Zootaxa, 3486, pp. 63-88.
・Feirulsha NSB & Rahim ABA (2020) A new species of Pereionotus (Amphipoda, Senticaudata, Philiantidae) from Pulau Tinggi, Sultan Iskandar Marine Park, Malaysia. Zoosyst, 96 (1), pp. 195-203.
・Gurjanova E (1938). Amphipoda, Gammaroidea zalikov Siaukhu i Sudzukhe (Yaponskoe More). [Amphipoda, Gammaroidea of Siaukhu Bay and Sudzukhe Bay (Japan Sea)]. Reports of the Japan Sea Hydrobiological Expedition of the Zoological Institute of the Academy of Sciences USSR in 1934, 1, pp. 241-404.
・Hirayama (1987) Taxonomic Studies on the Shallow Water Gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan. VII. Melitidae (Melita), Melphidippidae, Oedicerotidae, Philiantidae and Phoxocephalidae. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 32 (1-3), pp. 1-62.
・平山明(1995)端脚目. In; 西村三郎. 原色検索日本海岸動物図鑑[II]. 保育社, pp.172-192.
・Kim CB, Kim HS & Kim W (1992) Three Species of Gammaridean Amphipod (Crustacea) from Korean Waters. The Korean Journal of Systematic Zoology, 3, pp. 101-112.
・Tzvetkova N.L. (1967). K faune i ekologii bokoplavov (Amphipoda, Gammaridea) zaliva Pos'et (Japonskoe more). [On the fauna and ecology of amphipods (Amphipoda, Gammaridea) of the Possjet Bay (the Sea of Japan)]. Issledovanija Fauny Morej, 5 (13), pp. 160-195.