2022年9月24日土曜日

ミノガサヨコエビ Iphiplateia whiteleggei Stebbing, 1899

Amphipoda 端脚目>Senticaudata>Phliantidae ミノガサヨコエビ科

図1a:ミノガサヨコエビ♂
2022年8月大阪 スケールは1㎜
体長3.4㎜ ※額角~折り曲げた腹部まで
潮下帯のウミウチワ属褐藻(コナミウミウチワ?)葉上から多数得られた


 非常に扁平なヨコエビで、体型は楕円形。体色は緑~褐色で、辺縁の白斑はある個体とない個体がいる。腹部を曲げた状態で体長3㎜ほど。潮下帯の様々な海藻上に生息する。国内では北海道、八丈島、神奈川県、三重県~大阪府、瀬戸内海、福井県、長崎県から報告がある(有山, 2022)。

 国外ではオーストラリア南東部および周辺の島々、ニューギニア島沿岸に分布し、タイプ産地はオーストラリアのワトソン湾である。Ishimaru (1986) は日本、オーストラリア、パプアニューギニアで採集されたミノガサヨコエビを比較し、互いに形態的な差異が見られることを報告している。

 Ishimaru (1986) は本種の形態を丁寧に説明しているうえ、ネットでタダで読めるのでオススメ。


図1b:ミノガサヨコエビ♀
体長3㎜ 腹卵葉が発達している


 雌雄で形態的な差が少ないが、雄のほうが体幅が狭く、やや楕円形になる傾向がある(Coleman & Lowry, 2012)。確実に雌雄を判別するには、成熟雌の覆卵葉や抱卵・抱子を確認するか、雄の第7胸脚付け根にある生殖器を確認する必要がある。


図1c:海藻に張り付くミノガサヨコエビ

 小型の雄個体が成熟サイズの雌個体の背面に乗っかっている様子を観察した。交尾前ガードをしていたのかもしれない。


図2a:第1,2小顎 顎脚

 第1小顎内板と鬚は無く、外板先端に棘が並ぶ。第2小顎の内板と外板は近位部で癒合していること、内板の先端に数本の剛毛が並ぶ(内側に2本棘のある剛毛、中間に1本先が細まる剛毛、外側に4本先が角ばる剛毛が生えていた)ことで、よく似た I. orientalis と区別できる。顎脚鬚は4節。


図2b:第1-3腹肢

 第1腹肢柄節は変形しない。第2,3腹肢柄節内側は突出する。第3腹肢内肢は痕跡的(矢印)。


●近縁種との識別

 Coleman & Lowry (2012) が本属の検索表を提供している。

 ミノガサヨコエビ属の中で胸節背面の正中線上にキールをもたないのはミノガサヨコエビと I. marleneae , I. orientalis の3種類である。I. marleneae は体型が正円に近いことで本種と区別できる。I. orientalis は本種によく似るが、第2小顎の外板と内板は明確に分かれ、内板末端の剛毛は数が少なく頑強なことで区別できる。

 現在のところ、日本国内からはミノガサヨコエビ1種類しか報告されていない。I. marleneae は西オーストラリアのニンガルリーフ(Ningaloo reef)、I. orientalis は極東ロシアのポシェト(Posjet)がタイプ産地。


<参考>
・有山啓之(2022)ヨコエビガイドブック. 海文堂出版株式会社. 158pp.
・Barnard (1981) Redescription of Iphiplateia whiteleggei, a New Guinea Marine amphipod (Crustacea). Proceedings of the Biological Society of Washington, 94 (4), pp. 1211-1218.
・平山明(1995)端脚目. In; 西村三郎. 原色検索日本海岸動物図鑑[II]. 保育社, pp. 172-192.