2022年4月10日日曜日

ツガルワレカラ Caprella tsugarensis Utinomi, 1947

       Amphipoda 端脚目>Senticaudata亜目>Caprellidae ワレカラ科 

図1a:ツガルワレカラ 老熟雄
2021年3月富山 ホンダワラ属流れ藻から採集
図1b:ツガルワレカラ若齢♂ 成熟♀
2021年5月神奈川 コアマモから採集

 非常に細長いワレカラで、雄の大型個体は体長15㎜に達する。タイプ産地は陸奥湾の浅虫で、北海道~九州の各地沿岸に分布する。国外ではポシェット湾(Posjet Bay)や韓国沿岸で報告がある。砂地のアマモ・スガモ群落や岩礁域のガラモ群落に生息し、主に植物プランクトンやデトリタスを食べる。

 第1触角は体長の1/2未満。体節に明瞭な突起はない。最長節は第3胸節。鰓は細長く、根元で湾曲し長軸が体節と並行になる。第5-7胸脚に把握棘をもち、把握棘には方形状の独特な鋸歯を具える(図2b)。雄は大型個体でも第2咬脚基節が伸長しない。


図2a:雄第2咬脚(上は図1a、下は図1bの個体)
拡大写真のフォーカスがあってないが、把握棘は横並びに2本、副把握棘は縦に3本

 第2咬脚は小型個体や雌では第2胸節の前方に位置するが(図1b)、大型個体ではほぼ中央に位置している(図1a)。小型個体では前節基部に、大型個体では近位~中央に把握棘を具える。把握棘は1対あり、遠位側に3本の副把握棘が続く。


図2b:上から第7,6,5胸脚(図1aの個体)
拡大写真のフォーカスがあってないが、把握棘は横並びに2本

 第5-7胸脚は後方のものほど長い。前節基部に1対の把握棘をもち、把握棘の長軸方向には方形の鋸歯を具える。


図2c:雄腹部腹面(図1aの個体)

 雄の腹部付属肢は2節からなり、末節は楕円形で辺縁が毛に縁取られる。


ーーーーーー種内変異ーーーーーー

 竹内(1995)によると、ツガルワレカラの頭部先端は丸いが、ガラモ場では頭部に突起をもつ個体が採集され、これらは別種の可能性があるという。

 ただし、少なくともこのページで紹介した個体は(図1aはガラモ場、図1bはアマモ場で採集された個体)どちらも頭部に小さい突起をもち、違いは見られなかった。


ーーーーーー類似種との識別ーーーーーー

 ホソワレカラ(C. danilevskii)やオカダワレカラ(C. okadai)などは本種に似るが、第5-7胸脚に把握棘がない(オカダワレカラは第5胸脚に把握棘をもつこともある)点で区別できる。

 カギノテワレカラ(C. subinermis)は本種と酷似し、特に若齢個体では識別が困難になる。雄同士の比較では、第2咬脚の把握棘の位置がカギノテワレカラでより遠位側に寄ることが有効な識別点であるらしい(青木、1994)。その他の識別点として、十分に成熟した雄では、カギノテワレカラで第2胸節が最長節となることや、第2咬脚が第2胸節後端に位置すること、第2咬脚前節がツガルワレカラより伸長することなどから区別できる。


<参考>
・Arimoto I (1976) Taxonomic Studies of Caprellids (Crustacea, Amphipoda, Caprellidae) Found in the Japanese and Adjacent Waters. Special Publications from the Seto Marine Biological Laboratory, Ⅲ, 229pp.
・青木(1994)天草のツガルワレカラについて(動物分類学会第30回大会記事). 動物分類学会誌, 51, pp. 80-81.
・竹内一郎(1995)ワレカラ亜目. In; 西村三郎. 原色検索日本海岸動物図鑑[II]. 保育社, pp.193-205.
・細野隆史・宗原弘幸(2001)北海道南部臼尻周辺に出現するワレカラ類(甲殻綱,端脚目,ワレカラ科). 北海道大学水産科学研究彙報, 52 (1) , pp. 11-37.
・Jeong SJ, Yu OH and Suh H (2004) Seasonal Variation and Feeding Habits of Amphipods Inhabiting Zostera marina Beds in Gwangyang Bay, Korea. The Korean Society of Fisheries and Aquatic Science, 37 (2), pp. 122-128.