2021年12月26日日曜日

イクビワレカラ Paracaprella crassa Mayer, 1903

   Amphipoda 端脚目>Senticaudata亜目>Caprellidae ワレカラ科 

図1a:イクビワレカラ♂ スケールは1㎜
2021年12月神奈川 岩礁域潮下帯
ホンダワラ属根元のヒドロ虫群体から採集した(図1c)

 体長5㎜以下の小型ワレカラ。生時には体表にデトリタスを付着させていることが多い(図1c)。房総半島以南の太平洋側や、対馬海峡などで見つかっている。ガラモ場のホンダワラ類基部やコケムシ類群体などから採集される。

 頭部は背縁がやや角ばり、横から見ると三角形に突出して見える。第1触角は体長の1/3~1/2程度で、柄部は3節ある。第2触角は第1触角柄部と同程度の長さ。第5胸節は長く、第6胸節と第7胸節を足したのとほぼ同じ長さ。第5胸脚は各節に剛毛が密生し、第6・7胸脚より細長い。

図1b:成体♀

 雄と比べて第2咬脚が小さい。覆卵葉にもデトリタスが付着している。

図1c:わらわらイクビワレカラ

 ヒドロ虫(軟クラゲ目?)群体に付着するイクビワレカラたち。よく見ると、第5胸脚は基質を掴んでおらず、「バンザイ」している。

図2a:♂左第2咬脚

 雄の第2咬脚前節近位部に裁断状の大きな突起があり、先端には3歯を具える。

図2b:♂第3・4胸節と第3・4胸脚 右背側面

 本種の重要な特徴として、成熟した雄の第3・4胸節の側面には各3対の鋸歯状突起(白矢印)があることが挙げられる。この突起は大型個体ほど発達するようである。

 また、イクビワレカラ属は雌雄とも鰓の基部に2節の第3・4胸脚をもつ(黄色矢印)。第3・4胸脚はエタノールで固定するとかなり縮んでしまったので、固定前に観察するのがよいと思う。図1a、図1bを拡大すると第3・4胸脚が確認できる。

図2c:♂腹節腹面 不鮮明だが中央付近に写っている
たぶん、Aがabdominal appendage、Bがabdominal lobe

 イクビワレカラ属の腹部には、雄では1対の付属肢(appendages)と葉(lobes)が、雌では1対の葉のみがある。

ーーーーーーイクビワレカラ属(Paracaprella)についてーーーーーー

 イクビワレカラ属は熱帯から温帯域を中心に分布するワレカラで、第3・4胸脚が2節であることや、雄は腹部に1対の付属肢と葉をもつことなどが特徴である。

 イクビワレカラ属は現在11種が知られており(WoRMS、2021年12月閲覧)、日本からはイクビワレカラ、イジョウワレカラ(P. insolita Arimoto, 1980)、トゲナシイクビワレカラ(P. tenuis Mayer, 1903)の3種類が知られている(Takeuchi, 1999)。

 Lacerda & Masunari (2014) にはイジョウワレカラ、P. carballoi Sánchez-Moyano, García-Asencio & Guerra-García, 2014、P. isabelae Sánchez-Moyano, García-Asencio & Guerra-García, 2014 の3種を除いた8種の検索表が図付きで提供されている。イジョウワレカラは雌しか報告がないが、頭部背側にひとつ突起をもつことで同属他種と区別できるとされている。
 

<参考>
・Ishitaro Arimoto (1976) Taxonomic Studies of Caprellids (Crustacea, Amphipoda, Caprellidae) Found in the Japanese and Adjacent Waters. Special Publications from the Seto Marine Biological Laboratory, Ⅲ, 229pp.
・竹内一郎(1995)ワレカラ亜目. In; 西村三郎. 原色検索日本海岸動物図鑑[II]. 保育社, pp.193-205.
・Ichiro Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea (Crustacea: Amphipoda) from Japanese waters. Otsuchi Marine Science, 24, pp. 5-17.
・Mariana B. Lacerda & Setuko Masunari (2014) A new species of Paracaprella Mayer, 1890 (Amphipoda: Caprellida: Caprellidae) from southern Brazil. Zootaxa, 3900 (3) , pp. 437-445.
・J.E. Sánchez-Moyano, I. García-Asencio and J.M. Guerra-García (2014) Littoral caprellids (Crustacea: Amphipoda) from the Mexican Central Pacific coast, with the description of four new species. Journal of Natural History, 49 (1-2) , pp. 77-127.