2022年6月2日木曜日

ヒゲツノメリタヨコエビ Melita setiflagella Yamato, 1988

Amphipoda 端脚目>Senticaudata>Melitidae メリタヨコエビ科

図1a:ヒゲツノメリタヨコエビ雌雄成体
2021年4月東京 河川干潟 スケールは3㎜


 本種は汽水域に生息することと、第2触角鞭部に剛毛をもつことから他の日本産メリタヨコエビ属と区別できる。

 体長は雄8㎜、雌7㎜(有山, 2022)。体色は白~淡褐色で褐色の斑点や縁取りがあり、全体的にまだら模様や縞模様があるようにみえる(有山, 2022、鈴木ら, 2013)。

 タイプ産地は広島県尾道市藤井川河口。ほかに熊本県汐入浜、広島県沼田川・太田川、茨城県涸沼、宮城県蒲生(Yamato, 1988)、東京湾(小川, 2011)、島根県、福岡県玄海灘側、有明海(有山, 2022)、国外では韓国のNoksan、Sŏngsanp'o(Kim et al., 1992)などで報告がある。


図1b:野外で交尾前ガードを行うペア


 ヒゲツノメリタヨコエビは河川干潟や運河など汽水域に生息する。また、砂地からカキ殻の上など様々な環境に出現する(小川, 2011)。しばしばシミズメリタヨコエビ(M. shimizuiと同所的にみられるが、本種のほうがより海に近い場所に出現する(Yamato, 1988)。


図2a:雄副鞭

 第1触角副鞭は3-4節(有山, 2022)。


図2b:雄第1,2咬脚 内側

 本種は第1,2咬脚・第5-7胸脚基節内側に円盤状の器官 "pereopodal disk (PD)" をもつ(図2bの赤囲い)。この器官は電解質の能動輸送を行い、塩分変化の激しい環境で体液の浸透圧を調整する機能をもつと考えられている(Kikuchi & Matsumasa, 1995)。


図2c:腹部~尾部

図2d:第2尾節後縁の棘
頭→尾側にむかって撮影

 第3腹側板の腹側後縁はやや尖る(図2cの赤矢印)。腹部背縁は滑らかで、第2尾節後縁に棘をもつ(図2c、図2d)。背縁の正中線上には棘はない(図2d)。


図2e:雄第1-3尾肢、尾節板

 第3尾肢外肢は1節。


図2f:雌第1,2咬脚(内側)、第6胸脚(外側)

 雌第6胸脚底節板の下縁は後ろ向きに曲がり(赤矢印)、上方に一列の鱗状突起をそなえる(有山, 2022)。


ーーーーーー北米の類似種 Melita nitida についてーーーーーー

 ヒゲツノメリタヨコエビ(M. setiflagella)に酷似した Melita nitida S.I. Smith in Verrill, 1873という種類がいる。M. nitida は北米の汽水域が原産だが、おそらく船舶の航行によって、オランダにも移入している。Yamato (1988)では、ヒゲツノメリタヨコエビは、第2触角柄節第5節が剛毛に覆われていないことと、触角洞に切れ込みがあることから M. nitida と異なるとしている。しかし、これらの差異が微妙なことや、両種とも形態的な変異があることから、両種が同種ではないかと疑うむきもある。もし仮に M. setiflagella M. nitida の新参異名だった場合、日本や韓国の"ヒゲツノメリタヨコエビ"も、人為的に移入された M. nitida とされる可能性がある(Faasse & van Moorsel, 2003)。


<参考>
・有山啓之(2022)ヨコエビガイドブック. 海文堂出版株式会社. 158pp.
・Faasse M. & van Moorsel G. (2003) The North-American amphipods, Melita nitida Smith, 1873 and Incisocalliope aestuarius (Watling and Maurer, 1973) (Crustacea: Amphipoda: Gammaridea), introduced to the Western Scheldt estuary (The Netherlands). Aquatic Ecology, 37. pp. 13-22.
・Kikuchi S. & Matsumasa M. (1995) Pereopodal disk: a new type of extrabranchial ion-transporting organ in an estuarine amphipod, Melita setiflagella (crustacea). Tissue and Cell, 27 (6). pp. 635-643.
・Kim C.B., Kim W. & Kim H.S. (1992) Three Species of the Genus Melita from Korea (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). The Korean Journal of Systematic Zoology, 3. pp. 113-120.
・小川洋(2011)東京湾のヨコエビガイドブック A Guidebook of Gammarids in Tokyo Bay Open edition ver.1.3. 東邦大学理学部 東京湾生態系研究センター, 138pp.
・鈴木孝男・木村昭一・木村妙子・森敬介・多留聖典(2013)干潟ベントスフィールド図鑑. 日本国際湿地保全連合. 257pp.
・Yamato S. (1988) Two Species of the Genus Melita (Crustacea: Amphipoda) from Brackish Waters in Japan. publication of the Seto marine biological laboratory, 33 (1-3). pp. 73-95.