Amphipoda 端脚目>Senticaudata>Melitidae メリタヨコエビ科
本種は汽水域に生息することと、第2触角鞭部に剛毛をもつことから他の日本産メリタヨコエビ属と区別できる。
体長は雄8㎜、雌7㎜(有山, 2022)。体色は白~淡褐色で褐色の斑点や縁取りがあり、全体的にまだら模様や縞模様があるようにみえる(有山, 2022、鈴木ら, 2013)。
タイプ産地は広島県尾道市藤井川河口。ほかに熊本県汐入浜、広島県沼田川・太田川、茨城県涸沼、宮城県蒲生(Yamato, 1988)、東京湾(小川, 2011)、島根県、福岡県玄海灘側、有明海(有山, 2022)、国外では韓国のNoksan、Sŏngsanp'o(Kim et al., 1992)などで報告がある。
ヒゲツノメリタヨコエビは河川干潟や運河など汽水域に生息する。また、砂地からカキ殻の上など様々な環境に出現する(小川, 2011)。しばしばシミズメリタヨコエビ(M. shimizui)と同所的にみられるが、本種のほうがより海に近い場所に出現する(Yamato, 1988)。
第1触角副鞭は3-4節(有山, 2022)。
本種は第1,2咬脚・第5-7胸脚基節内側に円盤状の器官 "pereopodal disk (PD)" をもつ(図2bの赤囲い)。この器官は電解質の能動輸送を行い、塩分変化の激しい環境で体液の浸透圧を調整する機能をもつと考えられている(Kikuchi & Matsumasa, 1995)。
第3腹側板の腹側後縁はやや尖る(図2cの赤矢印)。腹部背縁は滑らかで、第2尾節後縁に棘をもつ(図2c、図2d)。背縁の正中線上には棘はない(図2d)。
第3尾肢外肢は1節。
雌第6胸脚底節板の下縁は後ろ向きに曲がり(赤矢印)、上方に一列の鱗状突起をそなえる(有山, 2022)。
ーーーーーー北米の類似種 Melita nitida についてーーーーーー
ヒゲツノメリタヨコエビ(M. setiflagella)に酷似した Melita nitida S.I. Smith in Verrill, 1873という種類がいる。M. nitida は北米の汽水域が原産だが、おそらく船舶の航行によって、オランダにも移入している。Yamato (1988)では、ヒゲツノメリタヨコエビは、第2触角柄節第5節が剛毛に覆われていないことと、触角洞に切れ込みがあることから M. nitida と異なるとしている。しかし、これらの差異が微妙なことや、両種とも形態的な変異があることから、両種が同種ではないかと疑うむきもある。もし仮に M. setiflagella が M. nitida の新参異名だった場合、日本や韓国の"ヒゲツノメリタヨコエビ"も、人為的に移入された M. nitida とされる可能性がある(Faasse & van Moorsel, 2003)。